第10章 お腹が痛い 慶次
その日は雨で、ものすごくじめじめした夏だった。
は授業中に物凄い腹痛に襲われてしまった。
やばい、死ぬかもしれない
死ぬわけもないのに大げさに考えてお腹に手を添え、なんとか温めてやり過ごそうと眉間に皺を寄せた。
「…ちゃん?」
隣の席から声をかけられるとは迷惑そうな顔でその隣の席の慶次を睨み付けた。
「何」
「お腹いたいの?」
「まぁね」
腹痛に耐えながら返事をしているため、どうしても素っ気なくなってしまうのは仕方がない事だ。
現在数学の授業が始まってからちょうど35分が経つ頃だ。こうやって突然お腹が痛くなるとどうしても時計の針が進むのを気にしてしまう。だがそうしてしまえば針が進む速度を遅く感じてしまう。
「トイレ行けばいいのに」
「途中で抜け出すのやだ」
そうだ、誰しも一度は経験したことがあるのではないだろうか。
授業中に教室を出入りすると生徒からの注目を一気に浴びてしまう。悪目立ちではないだろうがどうしてもそう感じてしまう。
なので今までどんなに腹痛が酷くても、気持ち悪くて吐きそうになっても授業を途中で抜け出したりすることなかった。
「…あと、10分…ッ」
依然おさまることがない腹痛と戦いながら必死に板書をし、問題を解いては机に伏せるということを繰り返す。
「…保健室行けばいいのに」
「もう少しじゃん」
どうせおさまるだろうし、とは言う。
今迄だってそうだった。
保健室に行こうとすれば腹痛はおさまってしまうし、友達から薬を分けてもらうなんて迷惑すぎるだろうと。