第8章 とけた 小十郎
無機質な空間に、朝日は静かに流れ込んでくる。
そこには黒髪を下ろした女が一人、ベッドで寝ていた。
「ん…?」
天井が見える。真っ白だ。
「……」
体を起こしてベッドから出る。
「…?」
部屋の中には自分以外誰もいないのだと女は認識した。
朝日が流れ込んでくる窓を全開にして、大きく息を吸い込むと、薬品の匂いではないなんだか心が洗われるような涼しいにおいがした。
朝日が女を照らし、脳が活性化する。
「…」
後ろから男の声がする。
振り返るとそこには強面の自分ではない誰かが立っていた。
「あなたは」
朝日に照らされ、その男は輝いているように見えた。
白衣を着て、何かを手に持っているようだった。
その照らされた顔はなんだか悲しげに微笑んでいるようにも見えた。
「おはよう、ございます」
はハッとして、咄嗟に口を開く。すると男は驚いた顔をした。
「…あ、あぁ、おはよう」
しっかりと声が聞こえた。
その声は、
「小十郎、さん」
ふと口からこぼれたのは、男の名前。
片倉小十郎、
「…お前、いま」
「……記憶、あるみたいです。まだ、あいまいだけど」
が照れ臭さそうにはにかんだ瞬間、小十郎は勢いよく抱き付いた。
「大きな、一歩だ。これからも頑張ろう」
「はいっ」
朝の陽ざしは、頭に固まった記憶の氷まで溶かしてしまうようだった。
END