第8章 とけた 小十郎
光がある。
白い空間にいる。
私の手がある。
「……ここどこ?」
無機質な病室で一人の女はぐるりと周りを眺める。
「なにこれ」
白い空間に溶け込むようにして置いてある白い台の上に、一冊のノートが広げて置いてあった。そのすぐそばにはペンが転がっている。
日記かと思えば、それは日付も記しておらず、誰のものかもわからない。
『あなたは 、18歳』
「…、」
『字は読めてるはず。』
その字は震えていた。
所々なにかがこぼれてしわくちゃになっているところがある。
『あなたは記憶が一日しかもたない病気』
そういえば、とは昨日の事を思い出そうとする。
ところが、何も思い出せない。自分が生きていたのかということすら全く記憶になかった。
『あなたの部屋に毎日来るのは小十郎さん』
「こじゅう…ろう」
それを見計らったかのようにその真っ白な空間に別の光が差し込んだ。
「起きてたか、おはよう」
「…おはよう、ございます」
この人が、と小十郎を見つめる。
その視線を受けて小十郎は笑った。