第7章 いないいない 佐助 ★
そんなバカな、佐助がそう易々と敵にやられたりするわけがない。
きっと何か突然起こったことに戸惑ったりして帰りが遅れるだけだろう。
「…どうしたのかしら」
いつも入って来る門の前に立って、景色を眺める。
いつだって飄々としたあの態度を見るたび、私だけが止まっているんだって感じていた。
成長しているのは佐助だけ、私はまだ小さな子供。
現実を受け入れたくなくて、佐助が傍にいる暮らしを永遠と続けることができて、
いつかは小さなころに交わした夫婦になるだなんていう約束も果たされたりして。
そうやって私の脳内は小さなころから変わらず、…いや、変われずに身分という現実から目を背けて来た。
「佐助、ねぇ、佐助?」
手を伸ばして名前をささやいても、風がそれを掻き消すだけ。
何処へいったんだろう
いつから私の手の届かない所に行ったんだろう
いつから道を間違えたかなんて私にはわからない
「怖いの、一人は嫌」
小さい頃によく遊んでいたわ
こうやって、佐助は手のひらで自分の顔を隠して
いないいない、ばぁ
そういって私が瞬きする間もなく姿を消して、それからかくれんぼをしていた
「いない、…」
その言葉を発する前に、誰かが私の口を押える。
佐助、そう直感で思い、振り返ると切なげな笑みを浮かべた佐助がいた
「さ、す」
「…いないいなあい」
佐助は私の目のあたりを正面から手で覆う
まるで姿を認識されまいと、そう言うように。
「え、…っ」
「ばぁ」
口にあたたかく、柔らかな感触がしたかと思えば
それと同時に流れ込んできた噎せ返るような鉄臭さにめまいがする。
手が退いた。
「…佐助?」
もう目の前には姿がなかった。
代わりに握らされていた紙きれには、赤い文字でなにかが書かれている。
『ごめん ひめさん だいすき さよなら』
END