第6章 戦う人 幸村
「…あれ、ここ、なんで…?」
その場所は戦場になったはずなのに、血に汚されていない純粋な空間だった。
空も真っ青で、花も咲き誇り、青々と茂る草木はまるでを迎え入れてくれているような雰囲気だった。
「…佐助さん、幸村様、今、何処にいらっしゃるのですか?」
両腕を広げ、さわやかな風に髪をなびかせれば懐かしい空気に包まれる。
そのまま後ろにごろりと横たわり、草木の匂いを感じれば、溢れそうになっていた涙もひっこんでしまった。
「きっと、お2人でお出かけなさっているんでしょうね」
目を閉じればすぐそこに、此方を向いて談笑している2人の姿が浮かぶ。
手を伸ばせば届きそうなのに、あの日の様に手は空気を仰ぐだけ。
「おいしいお団子が、あるのですよ」
戦よりも楽しい日々が、今は続いている。
きっと今隣にいたらどんなに幸せな事か。どんなに嬉しい事か。
望んでもかなわないその希望はただ想い、消えていくのを繰り返す。
「この声を、心を、あなたに届けることができるのならば」
は寝っ転がったまま温かい涙を流した。
「…お慕いしておりました、幸村様…ッ」
どんなに叫んでも、もう届かないその声は一人寂しい野原を駆け巡っては誰の耳に届くわけもなく消えてくだけだった。
END