第9章 よかった、間に合った
私は毎日を静かに過ごす。
もともと、いじめられてるわけでもないし。
ただ、話しかけられないだけ。
こっちも話しかけないで、おとなしくしてれば平和。
私は休み時間や昼休みは本を読んで過ごす。
脳内設定は謎めいた文学少女。
本を読みながら、丁寧にブローしてまっすぐサラサラな髪を耳にかける。
藍田くんみたいな、むっつりスケベな文学少年が、本で得た知識を私で試してみたいと思ってくれればいいのに。
…
藍田くんは隣のクラス。
私はトイレに行くときとか、移動教室で前を通るとき、いつも彼の姿を見てしまう。
彼は1年のときと同じ。私と同じ。
一人で本を読んでいる。
彼は私に気づいたり気づかなかったり。
気づくとそっと微笑みをくれることもある。
私はそんなものをいまだに彼に求めてしまう。
…
学校はもうすぐ体育祭。
そっか。あれから、もう1年経つんだ。
私の初恋と初失恋と…。
あのときのわたし、どんな子だったんだろ。
覚えてないや。
今のわたしは…どんな子なんだろう…。
…
文学少女ごっこに疲れた…。
私は休み時間、ぐでっと机に突っ伏して目をつむる。
5月の明るい太陽の光が教室を照らす。
みんな新しい友達とワイワイ明るく話してる。
もうすぐ体育祭で、より明るい雰囲気だ。
太陽の光は平等に私の身体もほんのり暖めてくれるけど、心までは届かないみたい。
もうだめだ…頑張れない…。
私は立ち上がり、カバンを抱える。
誰も私なんかに気がつかない。
いてもいなくても一緒だから。
私は一人で教室を出る。
藍田くんのクラスの前で、つい一瞬立ち止まってしまう。
視線に気づいた彼が、本から少し顔を上げる。
私は自分が立ち止まったくせに、どんな顔をしていいのかわからない。
私はそのまま、その場から立ち去る。