第8章 えっと、ごめん
私は彼のベッドにもたれて、ぼーっとする。
「みなみ、眠いの? 寝る?」
「んっ? ううん。ぼーっとしてただけ」
「そっか」
「そうだ。借りてた本返す」
私はカバンから、本を出して彼に渡す。
「面白かった。ありがとう」
「うん。また別の持っていく?」
彼が楽しそうに本棚を眺めて腕組みする。
本が好きだから、人のために選ぶのも楽しいんだね。
私は彼の背中に返事する。
「ううん。もう来ないし。ここ」
彼がゆっくり振り返って、私の顔を見る。
「学校で返してくれてもいいよ」
そう言って、彼は少し微笑む。
「もう関わりたくない。藍田くんに」
「…今じゃなくてもいいんじゃないかな? 今、僕とも離れたらみなみ、学校で完全に一人になってしまうだろ?」
「学校で話すことなんてないじゃん」
「そうだけど…いるのといないのとでは違うんじゃないかな…」
彼が優しく話す。
私は無性に腹が立ってくる。
「手放すと思うと名残惜しいの? わたしのこと好きじゃないくせに」
「そんなこと…ないよ?」
「キスしたりできる程度には好き…ってこと?
それなら、わたしが告ったとき、妥協して付き合ってくれたらよかったのに。
わたしと藍田くん、はっきり人に言えるような関係だったら…。
わたし、今みたいな目にきっとあわなかったのに」
泣きたくないけど涙が出てくる。悔しい。
「藍田くん、わたしを騙してくれたらよかったのに。
一度断った後でも、普通に電話してくれたらよかったのに。
普通に話しかけてデートに誘ってくれたらよかったのに。
別に藍田くんがわたしのことそんなに好きじゃなくても、きっとわたしそんなこと気づかなかった。
そしたらわたし、川口くんに告られたときに、わたし藍田くんのことが好きだから、付き合えそうだからってはっきり言えたのに」