第3章 君の泣き顔、好きだよ
夕方、帰る前に観覧車に乗る。
向かい合って狭い所に二人きりってだけで、ちょっと緊張する。
「ねぇ、そっちに行っていい?」
彼が私の横を指差して言う。
「…いいよ」
「ありがとう」
嬉しそうに笑って、彼は私の隣に座る。
そして私の顔を見つめる。
私は恥ずかしくてうつむく。
「恥ずかしいの? 可愛い」
彼が優しく言う。
藍田くんはどうして平気なんだろう。
やっぱり私のこと好きじゃないからかな…。
「みなみに告白してきたのって川口?」
彼が私に尋ねる。
「なんで知ってるの?」
私は驚いて質問を返す。
「やっぱりそうなんだ。そんなの見てたらわかる」
彼はちょっと意地悪っぽく笑う。
「藍田くん、そんなに察しがいいなら、こんな恋人ごっこなんてする必要ないんじゃないの…」
私はちょっとあきれて言う。
「本で読んだり想像するのと、こんなふうに実際経験するのとでは全然違うよ…」
彼は私の腰に手をまわす。そして私の肩にそっと頭をのせた。
「こんなに柔らかいんだね…。みなみの身体」
私の頬に、首すじに、彼の髪が少しサラサラとあたる。
気持ち良さそうに目を閉じる彼。
眼鏡の中に長い睫毛が見える。
彼がふと目を開いて、私の顔を見上げる。
そして微笑む。
「気持ちいいよ。みなみもやってみて」
彼は顔を上げる。
そして腰にまわしていた手で、私の頭をなでなでしてから、そっと彼の肩に倒す。
私は力を抜いてコテンと頭をのせる。
……。
気持ちいい。
「ね?」
彼は私の顔を覗き込む。
「うん」
私は小さい声で頷く。