第3章 君の泣き顔、好きだよ
彼が私の髪を優しく撫でる。
私は目を閉じてみる。
本当に気持ちいい…。
涙がちょっとにじんでくる。
「ずっと、こうしていたいね…」
彼の声が語りかける。
うん。
でも藍田くんはどんな気持ちでそれを言ってるの?
「みなみ…泣いているの?」
彼が私の頬を伝う涙を、指でそっと拭う。
「みなみの泣き顔…好きだよ」
彼が優しく、すごく優しく言う。
なにそれ…。
「僕の前でいっぱい泣いていいよ。僕がなぐさめてあげる。いつでも」
私の目から涙があふれてくる。
彼がさらに私の身体を引き寄せる。
そして正面からぎゅっと抱く。
私は彼の肩におでこをのせる。
彼は私の後頭部をなでなでして、よしよしする。
なんなのかな…この状況。
藍田くんに泣かされて、藍田くんになぐさめられてる。
でもすごく、すごく気持ちいいんだ…。
…
帰りの電車。
「ねぇ、みなみ。怒ってるの?」
彼に尋ねられる。
「ううん、別に。怒ってないよ」
私は答える。
「でも、観覧車の後から無口だよ。みなみ」
「そうだね…うん。藍田くんみたいな人とどんな話をしたらいいのか、わたしわからないの」
私は素直な気持ちを伝える。
彼はにっこり微笑む。
「そっか。じゃあ僕も黙っていようかな。僕はみなみと一緒にいられるだけで嬉しいよ」
私も彼をならって、にっこり微笑みを返す。
彼は嬉しそうにまた話し出す。
「またデートしようね。今度は映画にしようか…。あれ? しゃべっちゃったよ。ふふ…」
彼が笑う。
私もちょっと声を出して笑った。