ありきたりな設定とイケメンのちょっと普通じゃない話
第8章 そよ風
あれから海軍は追ってくることはなく、ログも溜まったところで出航した。
リンは折れた数本の肋骨を治すために安静にしていた。その間、持ち出してきた一冊の本、後から風に運ばせたもう一冊の本を読んでいた。
『風の声を聞き
風を吹かせ
命を芽吹かせ
人々を癒し
時には寒く
生きとし生けるものを救う実
その実は、世界を救うことができるが、逆に滅ぼすこともできる。
風が幸福をもたらすのか、不幸をもたらすのかー…』
「曖昧な言い回しだな」
一人本を相手にぼやく。
こんな本が出回っていたなんて、知らなかった。
しかし、どうしてこんな本が書かれたのか。
謎は深まるばかりだった。
気分を晴らそうと、本を持って食堂に行く。
すると、シャチとペンギンがチェスをしていた。
「あ、リン、大丈夫か」
ペンギンの問いかけにうん、と頷く。
「そうそう、その本なんなんだ?ぶっ倒れてた時から持ってたけど」
シャチが興味を示す。
「これ、私の生まれた国のこととか書いてあるの」
「へえ、読ませてくれよ」
シャチに本を渡す。ペンギンも覗き込んだ。
しかし。
「・・・リン、これ、本なのか?」
シャチの言った意味が分からずに本を覗き込む。
だが普通の本と同じ、文字が書かれている紙の束になったものだ。
「どういうこと?」
「文字が書いてねえじゃねえか」
シャチはペラペラとページをめくるが白い紙が続くばかり。
「ちゃんと書いてあるよ!・・・ほらここ。私の名前・・・」
「ん?真っ白だが・・・」
ペンギンも文字が見えていないようだった。
「もしかして・・・」
ペンギンが腕を組みながら考察する。
「これはリンにしかみえないんじゃないのか・・いや、正確には・・・フワフワの実の能力者しか読めないんじゃ」
「……なるほど…Σありきたりすぎる」
「バカヤロー、ありきたりでなんぼだろこの小説はよ…ん?おれ何言ってんだ」
シャチが妙なことを口走った。
「で、そのことは船長に言ったのか?」
「あ…じゃなくて今初めて知ったし、今から報告してくる」
くるっと向きを変え、リンはローの部屋に向かった。