ありきたりな設定とイケメンのちょっと普通じゃない話
第6章 吹花擘柳 (すいかはくりゅう)
ローの作ってくれた薬は苦かったものの、とても良く効いた。
さっきは素晴らしく痛かった腰も、痛みが随分と和らいだのだ。
「良薬口に苦しって本当なんだね」
「さぁな」
ニッと笑うロー。
「ところで、これはなんの拷問」
これ、というのは、リンが休んでいたローのベッドにローが入り込んできて添い寝状態のことを指す。
「おれのベッドだここは」
「じゃあ連れてくるな」
「看病のためだ」
「これは看病と言わない」
「ごちゃごちゃ言うな。おれは眠いんだ」
言い合いの末、その言葉に罪悪感がぐさりと刺さったリンは布団を抜け出そうとしたが強制的に戻された。
「…行くな」
「ただでさえ私の為に起きてもらったんだ、寝るときくらい邪魔はいない方がいいでしょ」
「…いいから居ろ」
「?…」
ちょうど鎖骨のあたりに顔を埋めてくるロー。
子供のように抱きついてくるローに何か調子が狂ってしまった。
「わかった、居るから」
甘えてくる大型犬のようなローの頭を撫でる。
不思議な気持ちだった。
リンは、子供の頃を思い出した。
甘えていた記憶なんて綻びて今にも消えそうだった。
そう、しっかりと記憶がある頃にはすでに甘えさせてくれる唯一の人はいなかったのだから。
新しいお母さんが来て、妹が生まれて、妹は何かあればすぐにお父さんとお母さんにかまってもらえて、甘えることも許されて、大切そうに扱われていた。
私は甘えることも許されずに、妹と比べられて、泣いてもなにもかまってもらえなくて、人の温もりなんてもう感じることなんてないんだと思っていた。
今、感じているのはその人の温もりで、この人は私をすごく甘やかしてくれて、気付けばそれが当たり前になっていた。
その人が今自分に甘えている。
(…たまには交代ってことかな)
依然として抱きしめてくるローを優しく抱きしめ返せば、顔を上げて隈の出来た目でリンを見て、優しく笑った。
その顔にリンはこう言った。
「ずるい」
「ククッ、なんだそれは」
「なんとなく…」
スッと離れたローに寂しさが襲ってきた。
が、それはすぐに無くなる。
「やっぱり、こっちの方がいい」
「……どっちでも」
今度はリンが、ローの胸元に顔を埋める状態になったから。