ありきたりな設定とイケメンのちょっと普通じゃない話
第13章 朝凪
目がさめると、薬品の匂いが鼻についた。
首を動かし横を見ると、負傷した兵士たちとそれを看護する医者と看護師達。そして、リンのベッドのすぐそばに座っていたスモーカーと目が合った。
「目が覚めたか」
「……あの後、どうなったんですか」
「赤髪が、戦争を終わらせた。お前は赤髪たちに命を拾われたんだ」
「…そうですか」
口では落ち着いている風を装ったが、内心は混乱していた。
あの時シャンクスが本当にいたのだと。
夢だと思っていた。
スモーカーはベッドの脇にある台から帽子と紙を取り、リンの顔の横においた。
「帽子と、赤髪から渡してくれと頼まれた紙だ」
「帽子…!…よかった…」
帽子を抱きしめるリンに、スモーカーはある光景を思い出す。
まだ入隊して間もない頃。ある小さな島で駐留していた時のことだ。その島の国の姫が懐いてきたため、周りからは姫のお守りとまであだ名をつけられた。
ある日、その姫が大切にしていたぬいぐるみがなくなったと一人で泣いていた。
泣く姿なんて、初めて見た。幼いながらも気丈に振る舞っていた面だけしか見たことがなかったからだ。
スモーカーは一緒にぬいぐるみを探し、城の焼却炉の前に落ちているのを見つけ、きれいにして渡した。
受け取った姫は、ありがとうと何度もお礼を言って、そのぬいぐるみを抱きしめていた。
「……ドクターを呼んでくる」
そう言って立ち上がり、ドクターを呼びに行く。
スモーカーは頭の中がもやもやとしていた。
一方リンは、そんなスモーカーの後ろ姿に、幼い頃一緒にいてくれた海兵を思い出す。
そして、葉巻を吸っているという共通点に、リンはあることを試した。
ドクターを見つけ、歩いていたスモーカーの耳に、声が聞こえた。
『ありがとう』
スモーカーは足を止める。自分の近くにいる患者や看護師達は声が違うし、誰もそんなことを言っていない。
そして、スモーカーは遠くから声を届けるなんてことができる人間を、一人しか知らなかった。
「……リン、なのか」
ゆっくりと後ろを振り返る。
先ほどまで帽子を抱きしめていた少女が、こちらを見て一瞬目を見開きーーー
笑顔になった。