ありきたりな設定とイケメンのちょっと普通じゃない話
第12章 夜風
甲板にいたリンは、風の声を聞いていた。
自分の言葉が届き、ローからの言葉が来ることを少し期待していた。
(ローは風操れないのに、何を期待してるんだか…)
自分で自分に苦笑した。その時、1人の海兵が駆け寄ってきた。
「リンさん、本部より連絡があるそうで代われと」
「…さんって…」
海兵の対応に疑問符をつけながら中へと入っていった。
『あぁ、リンだな。私はセンゴクという』
「センゴク…?」
『あぁ。詳しいことはお前がこちらに来てから話すが、これだけは言っておく。作者の思い通りにはさせない…と』
「………あんた気は確かか?作者ってなんだ作者って」
『Σはっ!何か今気が乗っ取られたような…いや、気にせんでくれ。お前は海軍将校として扱う。手配書は幼少の頃のものだから民衆もわからんだろう。それだけ伝えておく』
「…そっちに着いたら質問攻めしてやるから覚悟しとけ」
ガチャ、と受話器を置くと、リンは再び外に出た。
潮風は相変わらず吹き続けている。
「…ロー、海軍は変だ…私より変かもしれない」
独り、どんよりとした灰色の空に呟く。
「ロー、トラファルガー・ロー。ロー…」
意味もなくローの名前を口にする。
「側にいたかった…」
帽子を深くかぶる。
この帽子だけが、ローとのつながりを示す、目に見えるものだった。
「…っ」
涙が溢れそうになった、その時だった。
風向きが突然変わる。
ビュオッとまるでリンめがけて吹いてきた風は、リンに届け物をして去っていく。
『いくらでも待ってやるから絶対に帰ってこい。愛してる、リン…』
「…⁈」
見開く目から溢れ頰をつたう涙。
まぎれもない、ローの声。ローが自分の名を呼ぶ時の声色。
「絶対に…帰るから…‼︎」
泣きながらも、口元に笑みを浮かべ、遠くの海へと呟いた。