ありきたりな設定とイケメンのちょっと普通じゃない話
第12章 夜風
青キジことクザンから聞かされた話はこうだった。
海軍の命令に従うこと。
「…それだけ?」
「なに、何か不満なの?」
青キジは小指で鼻をほじりながら言った。
「いや…もっといろいろあるのかと」
「そんなたくさんあっても困るじゃないの」
「え、それ私が困るのかあんたらが困るのか」
「こっちに決まってるじゃない。そんな覚えられないよ面倒くさい」
リンは目の前の男に呆れた。これが大将なんだ…と。
「とりあえず、これからの肩書きは大将補佐で。よろしくね」
「…は?」
これは何かの作戦なのか、ただの青キジという人間の性なのか…。罠の可能性は否定できないのが現状だ。
リンは甲板に出て、ハートの海賊団が消えていった水平線を眺めた。後ろに5人、銃を構えている。逃げやしないのに。
(……また一人に戻るだけだし、二年後は戻るし)
心ではそう思っていても、体は正直で、目から溢れるそれに苦笑する。
「ロー、私は必ず戻るから、待っててね」
言葉を風に乗せると、黄色い潜水艦の元へと風を吹かす。
「届くといいな」
曇り空を見上げ、呟いた。
ハートの海賊団は、危機から逃れたものの全員が沈んでいた。
涙を流す者もいれば、悲しみが深すぎてぼーっとしているものもいた。
「キャプテン…」
甲板に出て、リンの乗せられた海軍の船がいるであろう水平線をじっと眺める。
無力さを突きつけられた。
ローは何も言わず、ただ水平線を見ていた。
リンの判断は正しかった。今敵わない相手にぶつかってここで終わるのか、それとも先を見据えて行動するか。
「クソッ …‼︎」
その時、追い風だったのが、突然正面から突風が吹いた。
『ロー、私は必ず戻るから、待っててね』
「‼︎」
聞こえた声に目を見開く。
(幻聴…?いや、この風は…)
ローは、リンだと確信した。
(もし、おれの声が、届くならーーー)
「いくらでも待ってやるから絶対に帰ってこい。愛してる、リン…」
その声は、風に吹かれて消えていった。