第6章 故郷もいいけど
『ごめんなさい』
「いや、謝るのは俺の方だ。あれは俺の八つ当たりだ、悪かった」
『でも!』
「は何も悪くねぇ。あの及川って男にお前が取られる気がして、俺が勝手に妄想したのが悪かった」
妄想って…
多分、クロ君は徹からの告白を聞いていたんだろう。あたしが頷く返事をすると思ったんだ。
『…確かに徹は…及川さんの事は口で言うほど嫌いじゃないよ。多分、好きか嫌いかって聞かれたら好きなんだと思う』
あたしでも分かるくらい、クロ君は肩をビクッと竦めた。
その姿がまるで本当の猫みたいで少し笑ってしまった。
『だけど今、及川さんはあくまで元チームメイトで、元先輩。付き合う気は今はないよ』
「…今は、って事は…これからあるかもしれねぇって事か」
『それは分からないよ。自分が誰に恋して、誰と付き合うかなんて、今のあたしに分からない。それじゃダメかな』
するとクロ君はこちらまで歩いて来て、ギュッとあたしをその逞しい腕で抱きしめた。
「悪かった」
『…うん。あたしもきちんと伝えなくてごめんね』
クロ君の腕の中が妙に心地良くて、抵抗する事もなく暫く2人で抱き合っていた。
しばらく時間が経つと、どちらともなく同時に吹き出し、笑い合った。
「帰るか」
『そだね。明日も早いし、明後日の烏野高校との因縁の試合、そのためにも明日も勝って調子上げてかなきゃだしね!』
「おう!あー、お前烏野に知り合いいるか?」
『烏野?さぁ、分かんない。誰が行ったのかも分からないし。何で?』
「…いや、知らないなら気にすんな、何でもねぇよ」
北一の皆は徹たちと同じ、青城に行くから烏野には誰も行ってない気がするけど。
あ、けど北一時代天才と言われ続けた孤独な彼は、青城にはいなかった。
まぁ彼ほどの実力なら烏野とかじゃなく白鳥沢に行くだろう。
『ねぇ、クロ君』
「あ?」
『故郷もいいけど、
帰る場所があるって事は、凄く嬉しい。今のあたしの帰る場所は、音駒の皆がいる場所だよ』
「…おう」
(ずっと気になってたけど、トサカヘッドじゃないクロ君なんてクロ君じゃないみたい)
(まだ寝癖ついてねぇからな)