第2章 一山いくらの林檎 後
「で、誕生日プレゼントだったかな?」
牛尾の言葉であたしは意識を現実に戻した。
「あのプレゼントは、僕が土井さんにあげたくて勝手にあげただけなんだ。もしいただけるのなら来年の誕生日で十分嬉しいよ?」
「そうはいかないよー。牛尾の方が1回分少ないなんて。」
あたしは寝転がったまま牛尾を見上げる。
「それに来年あげられる保証も無いよ。」
「あれ?土井さんはそんな悲しいこと言うんだね。」
「だってー・・・。」
あたしはそこで言わないでおこうと口を閉じた。
だって・・・いつこの関係が終わるかなんて分からないじゃないか。
牛尾があたしを見限るかもしれない。素敵な彼女を作るかもしれない。その彼女が牛尾を束縛するかもしれない。あんな庶民との関係は断ちなさいと言われるかもしれない。
でもそんな悲しい、言ってしまえばあたしの勝手な被害妄想は、あたしの心の内に閉まっておこう。
「とにかく!近いうちのお返ししたいのよ。でも何がいいか分かんないからリクエスト聞こうと思って。」
「思い立ったらすぐ行動か。土井さんらしいね。」
「あまりお高くないものでお願いします。」
「高いものだから欲しいってわけじゃないよ。」
困ったように笑ってティーカップを置いた牛尾は、何やら突然立ち上がった。
何だろうとその背中を視線で追う。向かった先はクローゼット。中までしっかり整頓されていた。
「リクエストか・・・そうだなぁ・・・。」
ぶつぶつ言いながら持ってきたのは薄手の布団。
あたしの隣に来たかと思うと、牛尾は寝転がるあたしの上にふわっと布団をかけた。
「寒くないかい?」
「・・・大丈夫よ。」
くそっ!何こいつ!女心を掴むのが上手いんだから!
「それはよかった。」
その上であたしの頭を撫でるとか!この酔っ払い紳士め!完璧じゃねーか!