第12章 鮮明
「私は、悪魔ですよ。お嬢さん」
「……悪魔がどうして、こんなところに」
「貴女の死へしがみ付く強い意志に惹かれて、来てしまいました。貴女の、お名前は?」
「……アリス・ヴァインツ」
「貴女の願いはなんですか? 良ければ私が、叶えてあげましょう」
「ほんと?」
「ただし……貴女の願いが終わりを告げた時、契約として貴女の魂を頂きます。それと引き換えに、叶えましょう。貴女の、願いを」
私の願いは、ただ一つだけだった。男に手を伸ばした、魂を食われるとわかっていても。もうあんな叔母様も、叔父様も、親族達を見ていたくなかった。
「私を一人にしない、ものがほしい」
「ふん。いいでしょう……ならば私は、貴女に相応しいだけの姿で……執事としてまず、お傍に仕えましょう」
男が燕尾服を着て、漆黒の髪と紅茶色の瞳を覗かせ、初めて私の前に姿を現した。
「名前はないので、お好きにどうぞ」
「執事さん!」
「……それは、名前ではないのですが?」
「駄目?」
「……構いませんよ」
執事さんは、とても完璧主義だった。
目が覚めたすぐ傍に、執事さんはいた。にっこり微笑んで「お目覚めですか? お嬢様」と私に気遣いの言葉をかけた。
身体を起こせば、そこは病院ではなかった。包帯をしているものの、いつもの自室のベッドだった。それにしても……やけに静かじゃない?