第12章 鮮明
私がとんっと自らの夢の中で、自らの背を押した時、飛び込んだ先は底の見えない海だった。何度も何度も飛び込む光景だけ、ビデオの巻き戻しみたいに巻き戻しては再生し、また巻き戻して再生する。何度目かの飛び込みの果て、私の腕を掴んだ漆黒の男。
私と彼が出会ったのは、そんな途方のない自殺未遂の果てだった。
両親を失った、私の全てを失った。右を向いても左を向いても、知らない顔。親族達に引き取られた私は、両親と住んでいた家よりも更に大きいお屋敷へと移り住むことになった。
「アリス、ここがお前の新しい家だよ」
叔母様は、私を可愛がってくれた。叔父様も、そこにいた誰もが私に可哀想にと声をかけて、自分の家だと思いなさいと優しそうな言葉をかけた。けれど……それが仮面だったと気付いたのは、私が十歳になった頃だった。
毎日のように、貴族の嗜みとして礼儀作法や武術を習う日々。つまらない勉強も、可愛いメイドが作ってくれるお菓子を食べれば、すぐに回復。両親がいない私に、ここまでよくしてくれているんだ。頑張らなくては、頑張らなくては。
「アリス、貴方も十歳になりましたね。幼い貴方にこんなことを問うのも、酷なのかもしれないけどね……貴女の両親がお亡くなりになったことで、当主の座が空いてしまっているのよ」
それが何を意味しているのか、私にはわからない。
「両親の遺言の中に、全ての全権は貴女に……とあるのだけど。まさか、その歳で当主に等つかないわよね?」
ついたら、どうにかなってしまうのだろうか?