第9章 混乱
「クライヴ……?」
「どうやら、見失ったようです」
「なんですって!?」
「それに……姫様、ここはまずいかもしれません」
「何を言って……」
鈍い音が響く。棺桶をぎしりと、開けるような。
「酷い異臭がここにもあります。セバスチャンさん、貴方にもわかりますね?」
「ええ、勿論です……これは、どうしましょうね」
動力室には、これでもかというほどのおびただしい棺桶の数。そのどれもが、蓋を開け中から先程と同じ化け物が出てきては、アリス達へと襲い掛かる。
「これじゃあゾンビパニックだわっ!!」
「アリス様、ここは私が! クライヴさんは彼女をしっかり守っていて下さい」
「わかりました! 姫様、ここは危険です。一度上へ行きましょう」
ゾンビを掻き分け、クライヴはアリスを抱えたまま走る。その後を追いながら、障害になりうる者達をセバスチャンが処理していく。大きな箱の上へと飛び乗ると、一旦そこへアリスを下ろした。
「クライヴ!? 何を、する気……」
「姫様。彼だけではこの数を相手にするのは不可能です、私も加わって参ります。どうか、御命令を」
「っ……、クライヴ。我が魂を持って命じる。セバスチャンと共にここにいる化け物を全て排除しなさいっ!!」
「イエス・マイロード」
クライヴは彼女へ跪き、頭を下げた。そして顔を上げ、彼女の元を離れたかと思うと恐ろしい程の勢いで次々と敵を排除していく。
死体の腐敗した臭い、むせ返るような血の海。アリスの瞳に映るのは、血の海で踊る二人の執事の姿。けれど彼らはただの執事ではない。その瞳は、血のように鮮やかな赤に染まり、誰一人寄せ付けない強さを見せる。
あまりの悲惨な光景に、アリスは吐き気を催し口元を押さえた。けれど、けして目を逸らそうとはしない。
これが、真実だと自分の魂に刻み付けるように。