第9章 混乱
――嫌な予感がする……。
黙ってみていたアリスだったが、背を流れる冷や汗を感じ悪夢の始まりを待っているかのようで、恐ろしくなり始める。けれど、そんな彼女の葛藤も虚しく事は終わりを告げる。
マーガレットは、ゆらりと……怪しげに起き上った。
「これが神が私に授けてくれた、研究の成果ですっ!!」
わっと会場が沸く。拍手に包まれながら「マーガレット!」と叫びながら夫婦と思われる者達が、壇上へと歩み寄る。きっと、マーガレットの両親なのだろう。女の方は、彼女へと涙ながらに熱く抱擁した。
「マーガレット、生き返ったのね!? ああ、本当に……っ、よかった」
「……! 今すぐ彼女から離れろっ!!!」
「え……?」
アリスの瞳に焼き付いた光景。マーガレットと思わしき生き物は、顎が外れるのではないかというほどに口を開け、抱きしめている女の肩口を狙っているかのよう。アリスの中で、警告音が鳴り始める。これは危険だと、逃げなくてはと。
彼女の必死の声も、一歩及ばず。
「あっぎゃああああっ!!」
マーガレットは、まるで獣のように噛みついては、肉を食いちぎりくちゃくちゃと音を立てながら"食っていた"のだ。
「きゃあああああっ!! 化け物よっ!!」
「いやああっ!!」
会場は一気に恐怖の渦へと巻き込まれる。逃げ惑う人々、一人リアンだけは後退しながらぶつぶつと言葉を呟く。