第5章 予感
「疲れたの。あの男と居ると、本当に疲れる」
「姫様は……悪の貴族として、女王の憂いを晴らしてきました。ならば、姫様の憂いは誰が晴らすのでしょう?」
「そんなの、決まってるでしょう」
「ええ……そうですね」
彼女が安心するようにと想いを込め、クライヴは優しく背を撫でる。瞳を赤く、光らせながら。
「クライヴ、命令よ。私と共に、こんな茶番を続ける張本人をぶちのめす」
「イエス・マイロード」
クライヴは、アリスをお姫様抱っこをしてようやく誰もいない部屋を出た。月明かりさえも隠れ切った闇の中で、勝敗の見えない戦いが屋敷内に広がり続ける。遠くで聞こえる銃声も、誰かの悲鳴も、全てアリスにしてみれば雑音の一つでしかなかった。
悪の貴族で在り続ける意味、屋敷が襲われることも、今では片手で数えきれないほどにまで達する。死んでいく使用人達を目にしてからというもの、彼女は心に決めるのだった。
次こそは、守らなくてもいい人間が欲しい、と。
その願いは、クライヴの存在と共に叶えられるのだった。