第2章 帳
「カレン、リンス。ファントムハイヴ家執事が一旦お帰りのようです、お見送りを」
「かしこまりました、クライヴ様」
「私達が責任もって、お見送りいたします。クライヴさん」
二人のメイドに案内され、セバスチャンは立ち去っていく。クライヴはアリスの手を引き、彼とは反対方向へと歩き出す。
「大丈夫ですか? 姫様」
「……平気よ。私を誰だと思っているの?」
「私の愛しき、主です」
「それでいいのよ。それで……」
まるで籠の中の鳥。クライヴには、アリスがそのように見えて仕方なかった。出会ったあの日から、ずっと。自分のものであるはずなのに、誰かに未だ絡め取られているように映る。それでも彼は、アリスの傍を決して離れない。
ぎゅっと、片方の空いた手を握り締める。手袋の中に潜む、手の甲にある刺青を思いながら。
「姫様、私は貴女様の忠実なる下僕。あのような下等な者に気など向けなくとも……姫様に相応しいのはこの私、クライヴ・バロンただ一人だけで御座います」
「クライヴ」
「はい」
「最高の御持て成しを、ファントムハイヴ伯爵に」
「イエス……マイロード」
漆黒の執事は、鮮やかな彼女の真紅の瞳に魅入られていた。