第21章 約束
「アリス様。ここには私もクライヴさんもいます。けして、危険な目には遭いませんよ」
「……手、離して」
「嫌です」
「なんでよ」
「それは……」
彼女の方へと振り返ったセバスチャンは、空いた手で彼女の頬をそっと撫で、優しく微笑んだ。嫌がる素振りを見せない彼女に、心なしか近くで見ていたクライヴは面白くなさそうにしている。それさえもきっと、セバスチャンからすれば愉快な光景なのかもしれないが。
「アリス様が、苦しそうな表情を浮かべているからです。不安そうに揺れる真紅の瞳は、警戒心さえも薄れさせます。貴女を二度と、危険な目に遭わせたりしませんよ」
ぎゅっと握られた手。
「どうして……そこまでするの。女王の命だから?」
「いいえ、違います。ただ……貴女に、生きてほしいから」
そっと願う。ただそれだけを、そっと。彼の想いを知ってか知らずか、アリスは徐に彼の手を握り返した。拒むことは容易い、受け入れることは難しい。そんな当たり前のこと、きっと彼女ならわかっているだろう。
拒めなかったのは、アリス自身に彼に対する何か想いがあるせいなのか。
「最近のセバスチャン、変よ」
「貴女に狂わされているのかもしれませんね?」
「冗談言わないでよ」
ようやく三人が辿り着いた場所は廃墟。何処よりも薄暗く淀んだ空気が流れ込み、何かあると思わせるような雰囲気を纏っている。建物を眺めていたセバスチャンは、二人へと向き直った。