第16章 南瓜
「坊ちゃん、このかぼちゃはここで宜しいでしょうか?」
「ああ……いいんじゃないか?」
ファントムハイヴ家では、今日は一段と忙しなくとある準備を入念に行っていた。入念に、と言ってもシエルがではない。彼の執事の方だ。
「たかがハロウィンパーティーだろう? 適当に飾り付けておけばいいだろう」
「坊ちゃん。そういうわけには参りません。アリス様だけではなく、エリザベス様もいらっしゃるのですから……」
「煩くなりそうだな」
「賑やかだと仰って下さい。それではまるで、嫌々準備しているみたいではありませんか」
セバスチャンは玄関先にかぼちゃを並べ、溜息をついた。事の始まりは数日前にまで遡る。アリスを屋敷へ招待するきっかけを探していたシエルは、丁度ハロウィンの季節だったことを思い出したのだ。確かに、ハロウィンに便乗してパーティーを開いて招けばとても自然に彼女を屋敷へ誘うことが出来る。
とはいえ、当の本人は立場を利用してセバスチャンに全て準備を任せている始末。
「かぼちゃをくり抜く作業だけでも、お手伝い願えませんか?」
「僕は当主だぞ。招待客のリストを確認して、迅速にパーティーを進行する心構えをしておかなくては」
「それらしい言葉で私を納得させたと思わないで頂きたい」
セバスチャンはにっこり微笑んで、綺麗なかぼちゃをシエルへと手渡した。玄関先に並ぶかぼちゃはどれも個性的にくりぬかれており、手作り感満載だ。シエルは手元のかぼちゃへと視線を移した。