第88章 穏やかな時間
「……エルヴィン、」
薄ぼんやりとした微睡みの中、
凛の声のする方へ手を伸ばす。
柔らかい髪の毛に触れ、
そのままそっと抱き寄せた。
「……凛、気が付いたか……?」
問いかけてみるが、返事はない。
顔を覗き込んでみると、
まだ眠っているようだった。
「……寝言で俺の名を呼んでくれるのか。」
心の奥がくすぐったくなるような
心地良さを覚える。
女性に寝言で名前を呼ばれただけで、
こんなに嬉しく感じるものなのか。
また新たな感覚を発見したような気がして、
思わず顔がにやけてしまう。
「君には色々教えて貰ってばかりだな……」
凛の世界へタイムスリップした時からそうだ。
彼女には常に、色々な物事だけでなく、
今まで知らなかった、
知るつもりもなかったような感情を
教えて貰っている。
初めて会った時は、
ただ普通のどこにでもいるような
可愛いらしい女の子くらいにしか
思わなかったのに、
今は何にも代えがたい、
大切な女性になっていた。