第76章 過去と今の差し替え
「……他に、何か思ったことある?」
「……何か?」
「例えば……匂いのことは?」
凛の質問の意図が掴めないが、
真剣な瞳を前に
誤魔化そうという気も起きない。
「お前の匂いは、
初めて嗅いだ時から……温かいと思った。
初対面の時から、
何故か安心感を覚えるような匂いだと。」
正直に口を開くと、
俺の手を握る凛の手に、
一層力が込められたのが感じ取れる。
「……そう思ったことは今までなかったから、
不思議な感覚がした。」
動揺を隠し切れない熱い体温。
それを手の平で十分に感じたくなり、
手を返して指を絡める。
凛は特に拒否することもなく、
ただ少し目を伏せていた。