第32章 エルヴィンの感情
「凛の書類はこれで全てだな。」
エルヴィンに書類を手渡され、背中を押される。
この行動の意味からして、
部屋から出て行く以外の選択肢は
用意されてなさそうだった。
だけど、このままエルヴィンと離れるのが
何故かどうしようもなく怖かった。
「エルヴィン。
本当に調査前だから、なの?」
「ああ。」
ドアの前に立ち、
それだけしか返事をしないエルヴィンを
じっと見つめる。
いつもと同じ、
優しい表情を浮かべているようだが、
それも偽物の様にも思え、
どうしたらこの不安を取り除けるのかと
頭を働かすが、ここまで頑なに
何かを隠そうとしているエルヴィンに
かける言葉が見つからず、沈黙だけが漂う。
この静かに時間が流れている今、
エルヴィンは何を考え、
何を思っているのだろう。
自分にできるのは、
この故意に作り上げられた沈黙を
守ることだけなのだろうか。