第155章 ただいま
「エルヴィン、おかえり。」
重い瞼を開け、最初に目に飛び込んだのは、約一週間振りに会うにも拘らず、まるで懐かしく感じられない顔だった。
「……ああ、ただいま。」
自分が想像していた以上に、声は鮮明に出せるし、全身の怠さもない。
今すぐにでも身体を起こせそうなくらいだ。
「戻って来るの、意外と早かったね。」
手渡されたコップを受け取り、水分を体内に取り込んだ。
喉元は冷たい感覚を帯び、帰って来た、という実感がじわじわと湧き出して来る。
「凛に相当急かされたからな。
あまり長く居すぎると帰したくなくなるから、と。」
「……凛らしいね。」
そう言って笑うハンジの顔は、笑顔と言うには硬すぎる。
反射的に伸ばした手で、ハンジの頭をくしゃくしゃと撫でまわした。
「なに、私ダメな顔してた?」
「そうだな。君が自分で思っている以上には、辛そうな顔だったと思うよ。」
「まいったな……あの二人のこと、からかえる立場じゃないね。」
ははは、と乾いた笑い声を漏らしたハンジは立ち上がる。
「あなたのことを相当待ちわびていた二人を連れて来るよ。
殴られる準備は?」
「出来てるよ。
既に彼らの呪いにもかかっているしね。」
呪い?ちょっとその話、後で聞かせて。と、やっと表情を緩めたハンジは、少し急ぎ足で部屋を出て行った。