第154章 君と鼓動が重なる時
「君の幸せを、一番に願っているよ。」
「エルヴィン、私も」
「凛、」
時間を惜しむように、強い語感で名前を呼ばれて言葉を遮られ、その後に続く言葉を待つ。
……が、指先にエルヴィンの鼓動と熱が伝わったような感覚を覚え、すぐにふすまに手を掛けた。
既に確信はあった。
それでもそれを素直に認めることは出来ない。
ゆっくりふすまを開けると、そこにはここが”正常”である証拠となる、ただ何もない空間が広がっていた。
「……そんなに何度も言いかけるなら、最後くらい言ってくれても良かったのに。私だって、」
涙を誤魔化すために愚痴っぽくそう溢しかけて、言葉を止める。
……私だって?
私だって、その言葉を本当にエルヴィンに言いたかったのだろうか。
広くなってしまった部屋を立ち竦んで見つめたまま、もう答えも正解も出すことの出来なくなってしまった問いを、心の奥にしまい込んだ。