第146章 もっと素直に言えたなら
「俺は元の世界に戻らなければならない。
これは絶対だ。
……だが、言葉を声にすると、制御が効かなくなる。
確実に今以上、凛の側から離れたくなくなるし、元の世界に戻った時、凛が側に居ない状態の自分を想像することすら怖い。
何度も言いかけたが、君をこの世界で抱く度に、それを確信したよ……」
エルヴィンの口から出た“怖い”の文字が、苦しい動悸を呼び起こす。
普段のエルヴィンには、あまりにも似合わない言葉を自分が引き出してしまった事実も相まって、動悸は痛々しい速さを帯びる一方だった。
「こんな図体をしているのに、あまりにも女々しい自分に嫌気が差すよ。」
「図体は関係ないでしょ。」
出来るだけいつものように、軽くツッコミを入れてみると、エルヴィンはフッと息を漏らして笑った。
「リヴァイやモブリットは口に出来ていることを、自分だけ言えないのが正直悔しいんだ。」
「エルヴィンは背負ってるものが大きすぎるから、」
「ただ俺に意気地がないだけだよ。」
私の発言を遮った言葉は、脆いのに強い。
私がこれ以上エルヴィンにどんな声を掛けようと、エルヴィンは自分の考えを改めることはない。
そう確信してしまうような語調だった。
「凛、何も言えない代わりに、今日は君を抱きしめて眠って良いか?」
「……一緒に居る時は、いつもそうしてるでしょ?」
そうだな、と笑うエルヴィンの声は弱々しい。
今の私に、このエルヴィンを励まし、立ち直させることなんて無理だろう。
分かっていても、エルヴィンの心の曇りを少しでも取り除きたい。
そう思いながら、熱い身体をただただ寄せ続けた。