第146章 もっと素直に言えたなら
「……エルヴィン?」
抱きしめる力が一層強くなり、そっとエルヴィンの顔を覗き込もうとするが、ガッチリと身体は固定され、動けそうにない。
「さっきので全部話しきったよ。
言いたいことは、あと一つしかない。」
「……なに?」
「というより、こんなことを言ってしまうより前に言いたかった言葉だ。」
「何の話?」
問いを繰り返しても、エルヴィンは答えない。
言いたい、と言う割に口を割らないのは何故だろう。
「……これだけは言えないんだ。
何よりも一番言いたい言葉だが、今の俺は、君に言うことができない。
もう心当たりはあるだろう?」
笑い声にもため息にも似たエルヴィンの吐息は、私の肩を通り抜けて、室内の暖かい空気に混ざる。
エルヴィンと一緒に過ごす中で、何度も言いかけていた言葉が“それ”だろう。
心当たりがない筈がない。
言えない理由が見当たらない訳でもない。
そしてそれを、私が言って欲しいと強要できる立場ではない。
「……そこまで言ってるんだから、もう言ってくれていいのに。」
冗談めかした言い方しかできないのが苦しかった。
それでも明確な返答をすることは出来ず、エルヴィンの胸元に顔を埋めた。