第146章 もっと素直に言えたなら
「範司の話を聞いて、それが無理なことも分かったし、納得もした。
勿論、君を殺すために自分の世界に連れて帰る気なんて、微塵もない。」
少しずつ曇りを帯びるエルヴィンの声色は、どこか震えているようにも聞こえる。
その声に、自分の心音が煩くなっていくのが分かった。
「……それでも、凛には側に居て欲しいと思うんだ。
矛盾しているのは分かってる。
それなのにどうしても、この感情が拭いきれない。」
「エルヴィン、」
「すまない。
こんなことを君に話したところで、どうしようもないのに。
困らせて悪かったな。」
不意に身体を起こしたエルヴィンに思いきり抱き着く。
突然の衝撃にエルヴィンの身体は少し揺らぐが、それを受け入れるように、逞しく優しい腕がそっと腰に回された。
掛ける言葉はまだ見当たらない。
だけど今、エルヴィンの体温を直に感じたくて仕方ない。
その感情だけがヤケに際立ち、自分の手にはどうやっても収まり切らないエルヴィンの身体を、全身を使って包み込んだ。
「……俺の感情は、君に出会ってから振り回されてばかりだ。」
勿論いい意味で、だが。と笑みを溢すエルヴィンの目は、まだ閉じられたままだった。