第138章 目覚めの時は
身体が酷い重力を感じている。
今回は足腰も痛いし、起き上がるまでにはかなりの時間を要しそうだ。
……私はまた一日、眠ってしまっていたんだろう。
ただ、本当に“一日”だったのかどうかも怪しく感じてしまう程の、今まで以上の身体の怠さを感じていた。
取り敢えず瞼を開かないことには、何もできない。
一度深呼吸しようと大きく息を吸ったところで、ある異変に気付いた。
……い草の匂い……?
かなり久しぶりに嗅ぐ懐かしい匂いに驚き、予想外のタイミングで簡単に瞼は緩む。
視線の先にあった和風ペンダントライトを目にし、思わず目は見開いた。
……元の世界に戻っている。
まだ身体は動きそうになく、視線だけで見える範囲を見渡す。
ここはきっと、“使者と繋がる部屋”だろう。
殺風景な雰囲気からそれを感じ取る。
私は長い間、エルヴィンたちの世界で眠り続け、何らかの方法を試された末に、元の世界へ戻ってきた、ということなんだろうか……
……皆と離れてしまった。
そうなるかも知れないことは、多少覚悟していたつもりだ。
それでも、その事実は悲しみも恐ろしさも一緒に連れてきた。
もう一度目を瞑り、最後の記憶を辿る。
エルヴィンと会って、愁いを帯びた瞳を目にし、唇を重ねたところまでは覚えている。
その後からの記憶がない……
しばらく寝転んでいる内に、少しずつ体の筋肉が力を取り戻していくのを感じ、身体を起こそうと横を向いた。