第137章 大切な時間
「エルヴィン……
もしかして、何か気付いてる?」
「……何故そう思うんだ?」
「……ううん。違うならいい。」
エルヴィンは再び胸に埋まって来た凛を抱き留める。
相変わらず、凛は最近ますます鋭い。
何かに気付いている、まで確実な事ではないが、気になっていることならあった。
俺たちは、凛の世界に迷い込んだ時、“凛の生きる力を取り戻す”ことができたから、この世界に戻ることが出来た。
それならこの世界に偶発的に訪れてしまった凛は、何をしたら元の世界へ戻れるのだろうか。
ただあの部屋に行くだけでは不十分だとしか思えない。
あの部屋で何か戻れる方法を試すにしても、もし凛がこの世界でするべきことを成していなければ、その時点でもう戻ることは不可能なのではないだろうか。
凛を元の世界へ戻すつもりなんてこれっぽっちもないが、本当に凛がずっと眠ったままになってしまうなら……
そうなるくらいなら、取り戻した生気を元の世界で使って生きて欲しい、そうとも思う。
凛がこの世界に来る選択をしたなら、もう一生帰すつもりはない。
そう思っていたせいで、帰ることに関しての情報があまりにも少ない。
……こんなことが起きるなら、もっと凛の世界で情報収集をしておくべきだった。
今になってそんなことを考えても、もう遅い。
だが、この世界に居続けることで、凛にもしものことがあったら……
その思いが頭を過る度に、後悔せずにはいられなかった。