第137章 大切な時間
「モブリット、」
「ん?」
「私が元の世界に戻ったら、ちゃんと私のこと思い出してね。」
凛の言葉の意味は、簡単に理解できた。
完全に“火口君”が俺であるという前提での話だろう。
「凛は何かと頻繁に、突飛な事を言い出すよね……」
「言っておけば、モブリットなら本当にそうしてくれそうだから。」
冗談なのか本気なのか分からないような声色だが、話している内容からして、奇を衒われているように感じてしまう。
「もし思い出したら、今度こそ凛を独り占めさせてもらえる?」
「……うーん、それはモブリットが私を思い出すタイミングによるんじゃない?」
いきなり冗談めかした言い方をされ、思わず吹き出した。
この状況で、期待させるような発言をしたクセに、その期待を打ち消すような言葉を投げかけて来るから、凛は本当に掴みどころがない。
色々ツッコミを入れたい気分にもなるが、それより先に凛が口を開いた。
「私がおばあちゃんになるより前に思い出してくれると、ありがたいんだけどね。」
頬を緩めたままのその一言で、
この場を笑顔で離れられるようにしてくれている。
やっとそれに気付き、また凛に対する愛おしさが込み上げてきた。
「……そうだな。
そうできるように、今日からいつも以上に凛のことばかり考えるようにするよ。」
“転生説”を完全に信用している訳ではない。
それに、もし本当に凛の世界で転生できていたとしても、この世界での記憶を持ち続けることなんて、まず不可能なんじゃないかと思う。
それでも、
記憶がないままだとしても。
凛を愛することが出来る気がしてしまうくらい、強い想いを抱き続ける自信は、絶えず湧き上がっていた。