第137章 大切な時間
「……でも、ごめん。
凛を他の男に取られたくない、とも思ってる。
かなり矛盾してるよな……
今の状況だって、凛は俺の恋人って訳でもないのに。」
「そんなの、私だって思ってるよ。」
当然かのように即答され、思わず目を丸くする。
「今だってこんなに束縛したがってるのに、元の世界に戻ったからって、すぐ切り替えれる訳ないでしょ。」
凛の頭が、胸元に押し付けられる。
声色は軽く笑っているようなのに、どうしても泣いているように聞こえた。
「……でも、私は自意識過剰な上に臆病者だからね。
モブリットをずっと束縛しておくのも怖い。
私がいなくなったせいで、モブリットがずっと落ち込んだままだったら……なんて考えたら、怖くて。
それなら嫌でも今のうちに、モブリットに恋人を作って欲しいって言っておこうって思って。」
なかなかズルイ考え方でしょう?と困ったように笑う凛を、力強く抱きしめた。
「……本当に、君はズルいよ。」
この鷲掴みにされている心を、掴んでいる本人がいなくなったからって、他の誰かが解放できるとは全く思えない。
淋しさを埋めようと、他の誰かを抱いたとしても、逆に虚無感が広がって虚しくなるだけなことだって、想像に容易い。
……こんなに想っているのに、何故離れなければいけないんだ。
どんな形でも、彼女の側に居たい。
俺が、彼女を幸せにしたい。
「凛、しつこくてごめん、」
「……ん?」
「愛してる。君を、ずっと愛してる。」
こんな言葉、今の凛は望んでいない。
そんなことは分かってる。
それでも今、これを言わないでいられる理性は残っていなかった。