第107章 言葉の力
「……これ、」
「さっき少し雨に濡れたから、
身体冷えたんじゃないか?
下で温かい飲み物でも買って来ようか?」
自然な様子で肩に掛けられたものは、
淡いオレンジ色のストールだった。
「モブリット、用意良すぎる……」
「別に用意してた訳でもないんだけどね。
二人がデートしてる間、適当に店に入って
時間潰してた時に、これ見つけて。
凛に似合いそうだなと思ったから
買ったんだよ。」
……本当にモブリットは……
こっちがどう足掻こうと、
私の心を鷲掴みにするばかりだ。
我慢しきれなくなり、
ベッドの前でしゃがんでいたモブリットに
勢いよく抱き着いた。
「ちょ、凛っ…」
「今のはモブリットのせいだからね。」
「……何が?」
「こんなことされて、
こうしたくならない筈がないでしょ。」
完全に言い掛かりだが、これが事実だ。
私よりもっと
濡れた感触を帯びているモブリットを
包み込むように、
強く、強く、抱きしめた。