第107章 言葉の力
「良かった……別の部屋空いてて。」
「ああ。本当に良かったよ。」
安堵した表情を浮かべる凛を見て、
やっとこっちにも安心感が湧き上がる。
「でも、最後の一部屋とはいっても、
まさかあの部屋以外が空いてるとは
思わなかったよ。
そもそもそんなに人気ないってこと?」
「ホテルの場所自体、そんなに良くないしね。
人気がないって言うより、
他の地方から来る人たちには、
あまり知られてないのかも。」
「なるほど。それなら丁度良かったね。」
「……でも、
これから凛をどう帰すかが問題だな……」
窓からそっと外を覗くと、
ガラス窓を打ち破ろうとしているような、
激しい雨が降り注いでいた。
この酷い豪雨の中、
奔れる馬車はかなり限られてくるし、
そもそもウォール教徒が
ほぼ独占しているだろう。
だからといってこんな凄まじい雨の中、
凛を歩かせて帰すなんて論外だ。
唯一空いている“あの部屋”にも、
タイムスリップする可能性がある限り、
凛を一人で泊まらせることは出来ない。