第14章 親愛なる先生へ(武田一鉄)
拝啓
初春とはいえ厳しい寒さが続いております。お変わりございませんか。
なんて、お堅く書いてみましたが、武田先生、現在進行形で思いっきり私の視界の中にいるんですよね。他のクラスの採点でもしているのでしょうか。教卓に座った先生は、せわしなくペンを走らせています。あ、今メガネをクイってしました。
そちらから見た私はどうですか?窓際の前から3列目に座っている私のことです。真面目にテストを受けてるように見えますか?こんなに先生に熱い視線を送っているのに、全く目を合わせてくれないので、きっと私は目立っていないんでしょうね。嬉しいような悲しいような気分です。
さて、この手紙を読んでいる武田先生。今どこにいますか。職員室ですか?きっと驚いていることでしょうね。まさか小論文のテストでラブレターを書いてくる生徒がいるなんて夢にも思わなかったでしょう(笑)あ、これラブレターなんですよ、実は。
どうして(自称)勤勉な生徒である私が、小論文の回答用紙に、しかも『以下の長文を読んで下線部1の捉え方を整理した上で下線部2について具体例を交えて論じよ』の指示を無視して先生に恋文を書こうと思い至ったのか、その訳を説明してさしあげましょう。ん?日本語変かも。
この手紙を書いた理由は、先生がこの間、今日(1月10日)が誕生日だと仰っていたからです。あとラブレターを貰ったことがないとも言っていたからです。決してこのテストの長文の意味がわからないとか90分1500字がえげつないとかそういう理由からではありません。
突然ですが、私の好きなモデルさんがですね、この前、お昼のテレビでコーディネート対決してたんです。ファッションビルの中を自由に歩いて、予算内で洋服を買ってマネキンをコーディネートするっていう番組です。
そのモデルの子、いろんなお店で、コレにしよ〜ってひょいひょい適当に買っていくんですけど、でも揃えて全部着てみると、上手いこと全身お洒落にまとまっていました。すごいですよね。
なんていうか、武田先生の言葉のチョイスも似てるなって最近思ったんですよ。先生の選ぶ単語の1つ1つがとてもナイスで、しかもそれが集まってできるお話がいちいちお洒落で深イイんです。先生の言葉はモデルさんのファッションアイテムと同じってことです。これ上手いこと言えてます?座布団何枚もらえますかね?