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【ハイキュー!!】青息吐息の恋時雨【短編集】

第44章 狭くて、 丸くて、 ただひとつ(灰羽リエーフ)



電車が走り去ったあと、 リエーフはしばらく椅子に座って自分の両手を見つめていた。 最初に彼女を見つけた時から、 お別れに至るまでのことを順番に思い出そうとしていた。 背後に東京行きの電車がやってこなかったら、 暗くなるまでそこに座っていたかもしれない。

立ち上がり、 鞄を持ち上げる時、 隣の椅子にあの雑誌が残されていることに気がついた。

なまえが忘れていったのか、 わざと置いていったのか分からなかったが、 それを手に取る。


車両のドアをくぐる。 リエーフの身長だと、 少し頭を下げて文字通りくぐらなければならない。 座席でお喋りしている高校生や、 音楽を聞いているサラリーマン。 複数の人間の視線がパッと自分に注がれる感覚がするが、 特に煩わしさは感じない。

こういう時に、 どういう気持ちになるべきなのかもよく分からない。 そうじゃなくても、 1、 2、 3秒。 数えているうちに自分に集まった意識はすぐに散り散りになる。


さっきまで座っていたホームが空っぽになっているのが見えた。 電車が発進し、 音の無いその景色が収束するようにどんどん小さくなって、 最後には見えなくなる。 何か、 感情がコロンと音を立てて動いたけれど どう言葉にして良いのかわからなかった。 伝えたい相手も遠い。


独特の振動に揺られながら、 名残になった雑誌を広げる。 インクの匂いが立つ紙面をめくる。

来る。 次、 また、 また会えたら、 とリエーフは散りばめられた言葉を集めて思考を組み立てる。


どこかでまた会えたら、 その時には、 この気持ちを伝えたい。 言葉を見つけておかなきゃいけない。

行間の狭い塊の上を、 漁るように目が動く。 読めなかった 沁々 という文字を探していた。



ーーー

おしまい



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