第44章 狭くて、 丸くて、 ただひとつ(灰羽リエーフ)
そうか、 と気が付く。 なまえが他の人と違うと感じたのは、 俺のことをジロジロ見ないからだ。 初対面の人が自分に対して示してくる、 あの身構えた感じがしない。
つまり、 この人が生きてきた世界では、 ハーフや外国人なんてあまり珍しい存在ではないということになる。
それが新鮮であり、 なんだか少し恥ずかしくも、 悔しくもあった。 我ながら目立ちたがりだったんだなと思うけれど、 気持ちを止める術を知らない。
「でもほら、 俺、 身長でかいじゃん」
どうにか興味を引きたくて、 拗ねるように言ってみる。 「目だって緑、 髪は灰色」
「灰色!」
なまえは嬉しそうに声をあげた。 「私の髪は、 灰色がベースのアッシュよ」
「アッシュ?」馴染みのない単語だ。
「似合ってる?」なまえは自慢するように頭を軽く振る。
「うん、 とても」
「良かった。 嬉しいわ。 美容師さんにお願いしたの、 私に似合う色に染めてくださいって」
「え、 」とリエーフは声に出した。 「それ、 染めたの?」
「そうよ。 つい最近。 先週かしら」
「地毛かと思った」
「騙された?」なまえは笑った。
「リエーフ、 あなたって皆から愛されて育ったのね。 話しててよく分かるわ。 そういう人は、 疑うことを知らないからどうか気を付けて」
とびきり優しい声だった。 同じことを部の先輩あたりに言われたらムッとしてしまうだろうけど、 裏表の無いなまえの声には毒気が無くて、 自分に注がれていることに安心感さえ覚えてしまう。