第39章 始まりは睫毛より上(花巻貴大)
着いてしまった。
『花巻』と書かれた表札を前に、どっはぁーと息を吐く。
どうか教えてもらった住所が間違っていますように、地図アプリの挙動がおかしくなりますように、目的地に家が建っていませんように、とにかく花巻くんの家にたどり着きませんように!!と祈るような気持ちで駅から歩いてきたのだけれど全てが万事問題なかったらしい。ジーザス、と心の中で独り呟く。
閑静な住宅街。の中に建つ一軒家。想像していたよりも大きい。新しい。羨ましい。ここに花巻くんが?住んでいる?いや、表札に書いてあるから住んでいるんだろう。こちとら生まれた時から団地暮らしなのに。この差は一体。
妬む心を抑えもせずに、「花巻くんの趣味っぽい」と直感したアジアンテイストのカーテンがかかる二階の窓をメガネのブリッジを指で押し上げながら睨む。あそこが自室なんだろう。違ってたらごめん。まあいいよ、遥々ここまで来たのだから(思ったより近かったけど!)マサラ・チャイの一杯くらい飲ませてもらおうじゃあないか。
(お茶一杯で済みますように)
弱気なのか強気なのか自分でもわからないまま、インターホンのボタンを押した。人生が変わる物語。オープニングはこの呼び出し音から。
【ピンポーン】