第25章 川立ちは川で果てる
『誰…?』
浪士「なァに、名乗るほどのもんでもねェさ」
そういうと男は缶を一気に煽った。
『ちょっと!!それはおじいさんに…!』
浪士「あァ?我が国家の安寧のため、日々躍進する攘夷志士に異を唱えるとは貴様も逆賊かァ!?」
男は私の腕を掴んで怒鳴り散らす。
浪士「大体、こんな汚ねぇ明日の食いぶちも分からねェジジイなんざさっさとくたばっちまった方がお国のためだろーがよォ!」
『何を、言ってんの…』
浪士「さぁ攘夷志士様にそこにある食いもん、全部寄越しな」
そう言う男は身体中に酒の匂いを纏っていた。
浪士「どうした早く…」
『…ないわ』
浪士「あ?」
眉を潜めた男と目が合う。
私はその目を睨め付けた。
『ふざけんじゃないわよ。昼間っから酒飲んで人の食べ物奪うのが攘夷志士?そんなの、盗賊と同じよ』
浪士「…何だって?もういっぺん言ってみろ」
男は私の襟首を掴み歯軋りをした。
老人「お嬢ちゃん…!」
おじいさんが心配そうにこちらを見上げる。
『大丈夫だよ、おじいさんは離れてて』
浪士「無視してんじゃねェ、もういっぺん言ってみろってんだ!あぁ!?」
血走った目が私を睨みつける。
『何回だって言ってやるわ。アンタは攘夷志士なんて高尚なもんじゃない。ただの盗賊だって言ってんのよ』
浪士「このアマ…!」
男は額に血管を浮き出し、手を振り上げた。
『…っ』
しかし、その手は私の頬に当たる直前で勢いを失い、
代わりに私の顎を掴み顔を上げさせた。
『何…』
浪士「お前…」
ジロジロと値踏みするような視線と酒の不快な匂いが纏わりつく。
浪士「オイ、お前ら!」
『!?』
私の背後に向かって誰かを呼び寄せる男の声。
すると、目の前の男と同じように帯刀した男たちが現れ、私とおじいさんを囲んだ。
浪士「この女のツラ見ろ。こいつァ思わぬ収穫だぜオイ」
『うっ』
両手は背中で拘束され、髪を掴まれる。
無理に顔を引き上げられると男たちは私の顔を覗き込んだ。
浪士「コイツはな、金のなる木だ」