第19章 繊細な美
『ごめんなさい…』
頭を下げたまま、同じ言葉を繰り返す。
肩まで伸びた髪は顔を隠すように垂れ下がっていた。
土方「もういい。顔上げろ」
『…嫌です』
土方「もういいって言ってんだ」
『…っ』
下げられた頭に軽く手を乗せ、手のひらで弄ぶようにくしゃりと撫でる。
土方「んな謝られたら俺の立場が無ェ。大体、お前ェが謝る義理なんざ無ェだろうが。お前の出した答えなら…俺はそれでいい」
元々答えを急いたのは俺だ。
さくらが謝る理由はどこにも無ェ。
土方「お前は分かり易いって言っただろ。こうなることくらいすぐ分かる。お前が誰を選ぶかってのもな」
『!?』
さくらは驚いた様に顔を上げる。
土方「…フッ」
思わず口の端から笑みが漏れた。
土方「ほらもう行け。行かなきゃならねェとこがあんだろ?」
『…』
土方「ほら」
わざとかき混ぜるように髪を撫でると、困った様に眉を顰める。
嗚呼、名残惜しい時間だった。
俺の一挙一動に頬を染めるさくらに、都合のいい夢を見ていた。
『土方さん』
髪を直し、一歩後ろにさがったさくらが呼ぶ。
『…私の事、好きって言ってくれて…ありがとうございました』
夢は今にも終わりを迎えようとしているにも関わらず、視界の先はモヤが晴れたかのようにスッキリとしていた。
『さようなら』
そう言って頭を下げ、屯所の門へと歩いていくさくら。
ゆっくりと歩く背中を見送る。
土方「ふ…」
少し声に出かけて続きを飲み込んだ。
"振り返れ"
んな女々しいこと思うなんざ、明日はきっと槍が降る。
土方「…」
一歩…二歩…
男臭い屯所には馴染まない、女物の着物が視界から消えた。
土方「ったく…」
背後から感じる視線に大きくため息をつく。
隠れたつもりか知らんが、曲がり角から隊士達が覗いているのは大分前から分かっていた。
土方「お前ェらァァ!」
隊士s「!?」
え、何そのバレてたの!?みたいな顔。
土方「今すぐ道着に着替えろ!近藤さんが戻り次第稽古の続きだ!」
隊士s「お、おう!」
慌ててバタバタと廊下を走る隊士達。
いつもと変わらない何気ない光景。
庭先に咲く芙蓉の花が風に揺れた。
嗚呼…
土方「いい目覚めだ」