第2章 重なる唇
店員は健人の勢いに少々押されていたが、506号室です、と答えてくれた。
「…泉ちゃん。落ち着いた?」
「…おー…」
どう見ても落ち着いたと言うよりは落ち込んでいる。風磨は隣に座り、ずっと泉の頭を撫でていた。
すると泉の目に、また涙が溢れる。
「健人は、私の事好きじゃないのか…?」
「んー…好きだと思う。じゃなきゃずっと家に置いたりしないよ」
「健人と、健人とキスしたいー…」
脚をバタバタとさせ、目に溜まった涙を指で拭う。風磨は、そんな泉を抱きしめた。
「俺じゃ嫌?」
「お?」
「俺とキスするのじゃ嫌?」
「……わからないー……」
「じゃあ確かめよ」
と、そこで。
バーーーーーーンッ!!!!
「健人!」
驚いた二人が声を揃えた。
健人は風磨から泉を強引に剥がすと、引き寄せた。
「お、おー。なんで場所わかったー?」
「泉!だめだろ!?俺以外の男にのこのこついて行ったら!!」
「なんでだよ」
それは風磨だった。
「別にお前は泉ちゃんのことを女として見てないんだろ?恋愛感情ないんだろ?昨日の話も聞いたぞ。知ってるか?泉ちゃん朝までずっと泣いてたんだよ。お前がそういう中途半端な態度で接するからこうなったんだろうが」
「っ…」
悔しいが正論だ。返す言葉がない。
「健人ー…」
「…ん?」
「ごめんなさい…ごめにゃさぁい…」
泉の大きな瞳から、涙がポロポロ零れる。健人はそんな泉を見ていると、自然と笑顔が出た。
「怒ってないよ。俺が悪いんだから。俺こそごめんね」
「健人…私の事…好きか?」
「うん」
「じゃあ…」
唇に何か柔らかいものが当たる。一瞬の事だったので、健人も驚く。泉は唇を押さえて、顔をほのかに赤らめた。
「私も健人が好きだぞ。だからキスした」
あぁ、俺何悩んでたんだろう。
俺はこんなに必死になる程泉を女として好きなのに。
他の奴に取られたくなくて、一緒にいると幸せで、天真爛漫なところを見ているのが楽しくて…これが恋でなければなんだというんだ。