第1章 短編
止めようとした筈の涙が更に溢れだす。
シーザーが目を見開いて固まってしまった。
この前口説き文句で、女の涙に弱いと言っていたのは本当のようだ。
「・・・何で、泣くんだ。」
少し気まずそうに、でもしっかりと私を見据えて言葉を待つ。
掴まれていない方の手に力が入り、震える。
「シ、シーザーが他の女の人ばかり、私が居るのに、だから、もう好きじゃないんだって・・・。」
もう何を言っているか分からないぐらい頭の中がぐちゃぐちゃだ。
ふいに、ギュッと抱きしめられた。
「それは、嫉妬か?」
楽しそうなシーザーの声が耳元でする。
「っ・・・!好きな人が他の子を口説いていて嬉しいと思う人なんていないわ!」
嫉妬と言われて、湧き上がってくる羞恥心に言葉がつまる。
それが何だか悔しくて、わざと遠回しな言い方で答えてやる。
涙は、恥ずかしさのあまり引っ込んでしまった。
「あぁ、バンビーナようやく泣き止んでくれた。俺は女の涙に弱いんだ。」
「知ってるわ、貴方が涙に弱いことや綺麗な人が好きなことも・・・。」
「それは嬉しいな。」
シーザーは蕩けるような笑顔を私に向ける。
何で私に、そんな顔を見せるの?貴方の中では、私はちっぽけな存在でしょ?
その事が顔に出ていたのか、シーザーが私の手をギュッと握る。
「俺は生粋なイタリアーノだから、ナンパ癖が抜けないんだよ。」
「だからって!私の前でしなくていいでしょ!!」
思わず叫んでしまった。
シーザーを見ると眉尻を下げて困ったように笑っていた。
「すまなかった。サヨが強い人だと勘違いしていたんだ。それに、もう一つ言い訳を言うなら、情報収集でもあったんだよ。」
「何、それ・・・?情報収集?」
「あぁ、女の事は女が一番知っているからな。」
そう言って、シーザーはポケットから小さな箱を取り出す。
その中にはキラリと輝く指輪が入っていた。
「自分でも探してみたんだが、好きな人には最高な物を贈りたいだろ?だから、他の女性の意見も参考にしてみたんだ。」
恥ずかしそうに、はにかむシーザー。
私は感動のあまり、また涙する。