第9章 どっちつかず
隣国のように街灯が整備されていないこの国では、車を止めてしまえば周囲は暗闇に染まる。しばらく車を走らせたあと、リオンがゆっくりと鍵を回し静寂に包まれる。
どうして城に帰らないの。
ランプに火を灯したリオンの横顔が氷のように無表情で、私は言葉を飲み込んだ。
見慣れた漆黒の瞳は、まるで底のない闇のように暗い。
何だか、リオンじゃないみたい……。
どうしてだろう……怖い。
赤く照らされた腕が伸びてきて、私は思わず身を固くした。
叩かれる……?
けれど大きな掌は優しく私の顎に触れ、そのまま軽く持ち上げただけだった。仮面のようだったリオンの顔が近づくにつれ眉を寄せ苦しげなものになり、もう一方の指が私の唇を撫でた。
「キス、されたんですか」
「……」
「キスの方法は、まだ教えていなかったのに」