第9章 どっちつかず
「そ……」
そんなの教えてもらう必要なんてない、そう言いたかったのに言葉はリオンの唇で塞がれる。
生き物のように柔らかい舌が唇を割って押し入るのを感じながら、私は拒めなかった。
……どうして?
覚えたばかりの唇を忘れさせるような舌の動きに力が抜けて、長いような短い時が過ぎる。
「男を虜にする方法も教えて差し上げなくては。王子にとってただの遊びでは、困るんです」
唾液が糸を引いて唇が離れ、細い指が耳の後ろから下に滑って胸元に手をかけた。
怖いっ‼
「い、いや……」
やっとの思いで絞り出せたのはか細い声だったけれど、リオンの手はピタリと静止した。
「帰りましょう。レッスンは……また」
呟いた彼の表情はいつも通り優しくて、この数分の事は夢だったのかと思わされる。
だけど……震える指先で濡れた唇に触れる。
この感触を、忘れられるはずがない。
本当にレッスンが必要だと思うの?
尋ねてはいけないような気がして、私は黙り込んだ。