第8章 執事side2
気怠い男の声と共に扉が開くと、夢見心地な顔で相手を見つめる彼女がいた。決して俺には見せない顔。
キスでもしていたのか、頬が上気している。
隠し切れない苛立ちが行動に表れ、俺は痛がる彼女を無視して強く手を引き車へと押し込む。
怯えているのだろうか、彼女が抵抗することはなかった。
低い音と共に細かい振動が始まり、車は暗闇の中を滑るように走る。
……俺は一体何に苛立っているんだ?
こんな時間に男の元に通うなどはしたないことだとはいえ、彼女が王子に気に入られたことは確かだ。
しかも国王が最も望んでいる第一王子に。
第一王子は頭の切れる男だ。
姫である彼女と身体の関係を持ってしまえば、婚姻は避けられないことは理解しているに違いない。
それは俺にとっても、主である国王にとっても喜ばしいことなのだ。
……それなのに。