第7章 彼の言いなり
コンコンッ
急かすようなノックの音でハッと我にかえった。
わ、私今何を……。ファーストキスだったのに。
私に合わせて腰を屈めていたレンがドアに手をついたまま、気だるい声で答えた。
「なに?」
「申し訳ありませんが王子、こういうことは挙式の後に行って頂きたい」
ドアの向こうからは聞きなれた声が響いた。珍しく早口で、いつもの落ち着きは感じられないけれど、間違いない。
リオンの声だ。
大げさにため息をついてレンは私から離れていく。
「うるさい執事のお迎えだ。
次はうまく撒いてきて欲しいね」
拗ねたような顔をしてレンが鍵を外すと、勢いよく扉が開いた。リオンは冷たい表情でレンを一瞥すると、礼儀正しくお辞儀をして私の左手を握る。
私はといえば……リオンの顔をまっすぐに見れない。
私を立派な姫にするために日々尽くしてくれているのに、彼を裏切ったんだよね……。
「ごめんなさい」なんて言えるわけもなく、無言のまま私は
リオンに手を引かれていく。
普段は穏やかで優しいリオンの手が力強くて、
「痛い」という言葉が漏れた。
だけど訴えも無視されて、車に押し込まれる。
これは、リオンの?
隣国の影響でやっと車が走り始めたこの国で、いつも私を運ぶのは大きな長い車だけど……。
今日はいつもの半分以下の大きさで、運転手もいない。リオンは無言でハンドルを握った。